「大槌の風景 届けたい」民謡歌手 臼澤みさきさん

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自宅の和室にチョコンと正座した姿があまりにも可愛らしかったので、思わず聞いてしまった。「アイドルになるつもりはないの」。「ええっ、私は歌でやっていきたいです」。恥ずかしそうに語る民謡歌手・臼澤みさきさん(13)は7月25日に「故郷〜Blue Sky Homeland〜」(テイチク)でCDデビューを果たした。この小さな女の子が、大槌から全国へ歌声を届けている。

ふとしたことがきっかけだった。小3のころ、自宅近くにある「臼澤鹿子踊保存会館伝承館」の東梅英夫会長から、「アニメソングを歌っているから来てみない」と誘われた。実際に練習していたのはアニメソングではなく、民謡だったが、その雰囲気の良さが気に入って、習い始めることにした。ぐんぐんと上達して、2010年には青少年みんよう全国大会でグランプリを受賞するまでに至った。「それぞれの曲に背景があるのが民謡の楽しいところです」と笑顔を見せる。

状況が一変したのは、東日本大震災が起きてからだ。自宅は海辺から離れた山あいの地域にあるため、津波による直接的な被害はなかったが、仮設の中学校に通うことになった。避難所生活を余儀なくされた友人もいた。慰問活動に参加して、20カ所以上の避難所を歌ってまわった。「自分たちだけ歌っていていいのかと、迷いもありましたが、たくさんの方が喜んでくれました」と振り返る。やがてその姿がテレビに取り上げられ、デビューが決まる。「ありえないと思っていたことなので、本当にびっくりしました」。何から何まで初めてのことで、岩手から東京への移動も一苦労だった。

「大槌の姿を思い浮かべながら歌っています。故郷の風景が届けられればいいな」。今年8月28日には、NHK「歌謡コンサート」に出演。谷村新司や石川さゆりなど大御所が続々と登場する番組だ。この回は、自分だけが特別に若い存在だった。NHKホールの楽屋では2回リハーサルを挟みながら、楽屋の中で1人で6時間以上、本番を待ち続けた。ステージの前には、3000人以上の観客。「とにかくガチガチに緊張しました」とはいうものの、しっかり歌いきった。

デビュー作「故郷〜Blue Sky Homeland〜」(YouTube)の聞きどころは「2番が終わって、間奏明けのところです。力を込めて歌っています」。歌の主人公が再び幸せを探そうとする場面を挙げた。

今後は「作詞をやってみたいです。自分の思っていることをメロディーに合わせて歌ってみたいです」と目標を語るので、恋愛禁止のアイドルでもあるまいと、「恋愛ソングとかどう」と聞いてみると「ええっ、そういうことはまだ早いので歌いませんよ」。

好きなアーティストは、いきものがかりと絢香で、自身の目標とする存在でもある。最近は三味線も習うなど、多才な面をのぞかせる。

普段の学校生活は「フツーですよ。でも目立ちたがり屋でうるさいほうかな」。今後も大槌に住みながら、歌手としての活動を続ける。テレビに出た事で友人からも「良かったね」と言ってもらえる。体育の授業で友人とバスケをしたり、社会の授業を受けたりするのが大好きだ。将来は国際関係も学んでみたいそうだ。

大槌の現状については、「復興はまだまだですが、みんな頑張っています」。自らも「1人でも多くの人に歌に込められた気持ちを感じてほしい」とレッスンや自主練習に励んでいる。

自宅での取材を終え、彼女の原点ともいえる「伝承館」を一緒に訪れた。急に「キャー」というので何かと思ったら、「蝶が嫌い」と逃げ回っていた。

記事=新志 有裕写真=村上 あずさ