人が立ち止まる場所に 仮設食堂「よってたんせぇ」芳賀カンナさん

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「ちょっとお茶っこ飲んでって、ていう感じになればいい」。大槌町吉里吉里地区の仮設食堂「よってたんせぇ」は今年8月で開店1周年を迎えた。運営するのはワカメ養殖を営む漁師の妻らでつくる「マリンマザーズきりきり」の女性たちだ。芳賀カンナさん(44)は「いろんな人が話している姿が励みになる」と満足そうな笑みを浮かべる。

芳賀さんは、平日は保育園に勤務しながら、週末に「よってたんせぇ」に立つ。

芳賀さんには忘れられない光景がある。震災から2カ月が経った頃、がれきが積み上がった街中を、男性がただゆっくりと歩いていた。「人が立ち止まる場所が必要なんじゃないか」と感じた。

マリンマザーズきりきりは、2000年にワカメの養殖業を営む漁師の妻10人が集まって結成した。廃棄処分にしていたワカメの茎や芯の部分を使った加工食品を製造し、地元の朝市や県内のイベントなどで販売していた。だが、震災で海から200メートルの場所にあった加工場が津波で押し流された。ワカメの冷蔵庫も被害にあったが、偶然、芳賀さんの親族の冷蔵庫に30キロ分のワカメが残っていた。

「何かをしなければ」。県の「がんばろう!岩手・農村起業復興支援事業」を活用して資金を得て、プレハブ小屋を借り、まだがれきが残っていた2011年8月19日にオープンにこぎつけた。芳賀さんが勤める保育園に子どもを通わせる30代の女性を加えて、6人で再スタートを切った。

まだ仮設のコンビニができはじめたころで、女性が復興に向けて立ち上がったとマスコミに大きな注目を浴びた。マスコミの報道に合わせるように住民、ボランティアと訪れる人が増え、昼食時は満席になった。カンナさんが思い描いた「人が立ち寄れる場所」になっていった。

海の家をイメージして、プレハブ小屋の調理室にデッキの食堂を設けた。

食堂の運営は初めてで、メニューも当初はラーメンやカレーのみ。だが、活動を知ったフランス料理のシェフから「ここでしか食べられないものを作ったほうがいい」とアドバイスを受けた。レシピ開発の協力も得て、三陸沿岸で捕れたサケとイクラに、同県産の小麦を使ったワカメ麺、宮古産の塩を使った「吉里吉里鮭子(おやこ)焼きそば」を冬季の期間限定で販売した。

3月からは「ばぁーらーわかめ三昧ラーメン定食」も始めた。ばぁーらーは吉里吉里弁で「おどろくほど」といった意味で、ワカメをたっぷりと使った優しい塩味のラーメンと塩むすび、茎ワカメを使った「ばぁーらー漬け」と大槌の海を味わえる。

三陸産ワカメをたっぷりと使った塩ラーメンや塩むすびなど盛りだくさんの「ばぁーらーわかめ三昧ラーメン定食」

「買ってもらうことで励みになる。地域の特産を知ってもらって、大槌と全国につながりができてるように感じる」という芳賀さん。活動は行政からの補助金がメーンで、今後は自ら収益を上げていかないと継続は難しくなる。マリンマザーズで初期のころから作っている菓子「ワカメかりんとう」は震災前は年間100個程度の売り上げだったが、ここ1年で6千個を売り上げるまでになった。しかし、大槌町ではワカメを保管するための十分な数の冷蔵庫が確保できず、価格が高騰しているという逆風もある。

芳賀さんは「ずっとフル稼働しないといけない。たくさん期待されてるからね」と前を向く。他のメンバーも月曜日の定休日以外はシフトを組んでほぼ毎日、店に立つ。作業員とボランティアの人が話をし、学校帰りの中学生が立ち寄っておしゃべりする。津波の話しを聞いたり、話したり、色んな人が泣き笑いする光景が「よったんせぇ」にはある。

記事=中尾 悠希