<検証・復興への道 第2回>大槌町の水産業、人手の確保・育成が急務

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漁船・漁港復旧は着々

東日本大震災による津波と火災は、大槌の基幹産業である水産業にも大きな損害をもたらし、漁港や漁業・加工関連施設は壊滅し、漁船や漁網が流失した。震災発生から1年半あまり、新たな漁船は再起を期す漁師の元に行き渡りつつあり、漁港施設の復旧も進む。しかし、漁協の再興や担い手の育成、加工業の働き手確保など乗り越えなければならない課題も多い。大槌復興には産業の回復が欠かせない。第2回は基幹産業の水産業を取り上げる。

大震災で沈下し波をかぶる安渡地域の船揚げ場周辺。漁船の退避所として早期復旧を望む声が強い。左手に震災がれきの山=大槌漁港

漁港関連施設被害275億円

町災害対策本部(今年8月6日廃止)が昨年11月末現在でまとめた被害状況によると、水産業の被害は水産施設、漁船、養殖施設などで約51億2800万円。町農林水産課などによると、漁船はその大部分の672隻が流失破損し、漁協の定置網4ケ統もすべて失った。養殖棚もワカメ400台、ホタテ374台が被災した。名産サケのふ化場放流尾数は2011年度、前年の3分の1以下に減らさざるを得ず、アワビ漁の水揚げ量は前年度の約5分の1に激減した。

岩手県沿岸広域振興局水産部によると、防波堤や岸壁など漁港施設の被害は大槌漁港82億6000万円、吉里吉里漁港39億5000万円の計122億1000万円。防潮堤や水門など海岸保全施設は大槌漁港125億7000万円、吉里吉里漁港27億2000万円の計152億9000万円。両漁港の両施設を合わせると被害は275億円にも達する(いずれも災害査定決定金額)。

15年度までに漁港完全復旧

岩手県が9月27日公表した「社会資本の復旧・復興ロードマップ」や県沿岸広域振興局水産部によると、大槌・吉里吉里両漁港の漁港施設はいずれも来年度から復旧工事が本格化し15年度までに完全復旧を計画している。蓬莱島への防波330メートルは今なお水没したままだが、今月にも調査工事に入り、来年度中の復旧を目指す。

防潮堤や水門など海岸保全施設についても来年度、復旧工事に本格着手し、15年度完工が目途。最高14・5メートルと計画されている防潮堤については年内にも位置や構造案について住民に説明したいとしているが、住民の同意や用地取得は残る。

経営基盤の強化急ぐ新漁協

大槌漁業復興の核となって漁業者を支援すべきだった大槌町漁協は震災前から経営改善中だった。震災が追い打ちを掛け10億円を超える債務超過に転落し、国の強い指導もあって今年1月、解散方針を決定した。その事業を引き継ぐ形で新おおつち漁協(下村義則組合長)が今年3月発足した。しかし、自己資金に欠き「ほぼ無からの出発」(町農林水産課)を余儀なくされたため、職員も削減、経営基盤の安定強化に懸命だ。

漁協の大きな収入源になっている定置網漁は震災前4ケ統を数えたが、現在、1ケ統が復旧しただけで、将来的にも計3ケ統に縮小する方針だ。すべての定置網が復旧済みの釜石と比べるとき、旧漁協破たんが復興の足を引っ張ったことは否めない。

20代は「2、3人」

新おおつち漁協の組合員数は8 月末現在、263人で、震災前の旧組合859人から大きく減った。新組合に移らなかった組合員について下村組合長は「震災で亡くなった方に加え、これから借金して船や資材を購入し再開しようという年齢でない人」と説明し、特に70代以上の組合離れを指摘した。それでもなお、組合員の6割は65歳以上の高齢者で占められ、20代は「2、3人」。

町農林水産課では「養殖は30〜40代が震災前から意欲をもってやっており、行政としていろいろバックアップしたい」としているが、次世代の担い手育成は震災前にもまして急務。下村組合長は「近くに水産高校がない。せめて大槌か釜石の高校に水産科をつくってほしい」と訴える。

働き手不足深刻な加工業

町水産加工業振興協議会長を務める浦田商店代表取締役の浦田克利さん(51)は「各社生きるだけでも大変 な状況で協議会の活動ができる状況にない」と前置きしながら町内の加工業者の実情を説明。震災前10社を数えた協議会の会員で再建にこぎ着けたのは6社に とどまり、うち3社が町外で操業を再開している。

働き手不足が深刻な水産加工業=赤浜加工場の浦田商店

「この1年半、営業すらできなかった。動き出してはいるがブランクが大きく、取引先を失った。原発事故の兼ね合いもあって売れ行きも落ちている」とため息をつく。今とりわけ深刻なのは働き手不足で「各社とも人が全然集まらない。時給を上げたいが、それでは利益が上がらない」と苦しい表情。「全国から募集もしたいが、大槌に住むところもない。仮設住宅で空きがあれば提供してほしい」と要望した。

浦田さんは、大槌産品をブランド化して全国に届けたいと、関連同業3社とともにプロジェクト「立ち上がれ!ど真ん中・おおつち」を昨夏に立ち上げ、全国から4929人の支援を得ながら仮設工場を建設。今春には「ど真ん中・おおつち協同組合」(芳賀政和理事長)を設立し「流通先をいかに確保するかが大きな課題」として今夏からネット販売も手掛けるなど自立的経営に向け懸命だ。

多様な漁業への転換を

新おおつち漁協は国の補助や国際財団の支援で定置網1ケ統などを整え、9月に沖野島での定置網漁を始め、魚市場は漁師や仲買人らで久々に活気づいた。ただ、水揚げ量は連日低調で、今後到来する秋サケに関係者らは大きな期待を寄せる。

町農林水産課によると、10年度の生鮮魚貝藻類・水産製品加工品の水揚げ高計10億6047万円のうち、「町の魚」の名産サケが41・7%も占め、大槌の水産業を大きく支えてきた。ただ、大槌が位置する三陸の沖合は「世界三大漁場」の一つ。この恵みの海を最大限生かす多様な漁業への転換と、付加価値を高めブランド化する加工業の展開も復興に不可欠だろう。

記事=松本 裕樹