<検証・復興への道 第4回>病院再建遅れ、増す負担

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高齢者の多い大槌町で、暮らしに大きな影響を及ぼすのが医療問題だ。東日本大震災から1年9か月。津波で2階天井まで浸水し、使用不能となった県立大槌病院の再建場所が、大槌町小鎚の寺野地区でようやくめどが立った。なぜこんなに長引いたのか。今後どうなっていくのだろうか。

津波で2階まで浸水し、現在は解体工事が行われている旧大槌病院

多額の通院費用

現在の通院実態を聞くために、小鎚第10仮設住宅で暮らす山崎千恵子さん(72)を訪ねた。山崎さんの通院手段で行ってみようと、仮設診療所から自転車で向かったが、西から吹き下ろす、凍えるような風に、ハンドルを何度も取られそうになり、降りて押すこと3回、自宅まで1時間近くかかった。好天の日でも40分ほどはこぎ通しだ。「冬んなるとひどく吹くのよ、もう自転車はだめね」

大槌病院の仮設診療所

山崎さんは糖尿病の治療のため、月1回の検査と、翌週に結果を聞くため病院に通う。自転車で片道約1時間20分。仮設団地内の友人は皆、行きは家族の出勤時などに乗せてもらい、帰りは約2000円かけタクシーで帰る。無料の路線バスもあるが、通勤時間以降は3時間に1本で、時間が合わなければ待合所のない仮設診療所で待ち続けるのは難しい。

早く治したいと約20キロ離れた釜石市の病院への通院を選んだ人もいる。1回のタクシー代は往復1万円。震災をきっかけに、住民への負担は跳ね上がっている。

15年度完成予定

11月下旬、町役場で町と医療機関の懇談会が開かれた。「これで出ていった町の人も戻ってこられますね」。終了後、碇川豊町長に参加者が安堵の表情で話しかけた。町がやっと寺野地区での再建を提案したからだった。2015年度に完成する予定だ。大槌病院は現在、大槌町大槌のプレハブ棟で仮設診療所として稼働している。医師数などはほぼ震災前に戻っているが、約60床の入院機能は復旧しないまま、長期の不便を強いることになっていた。

当初町は、利便性から震災前と同じ町方(まちかた)地域での再建を望んだが、津波など災害に遭わない高台で、十分な広さの場所は地域内になく断念。移転地を探し、1万平方メートルを確保でき、事前の文化財調査など造成に時間がかからない寺野地区の運動公園に絞った。

町が大槌病院の建設予定地の候補にしたふれあい動物公園

入院機能の規模など、町でどれだけの医療が受けられるか具体的内容が決まるのは、来年3月の見込み。碇川町長は「定住環境にとって医療は重要。早期に着手できる場所を選んだ」と強調するが、気の抜けない状況は続く。

把握難しい「心の健康」

病院再建だけでなく、把握の難しい問題もある。町内には震災以前から精神科や心療内科など「心のケア」をする医療機関はない。震災による心理的ショックの慢性化や、仮設住宅や職場など生活環境が変わった影響など、精神面の健康はどう支えられているのだろう。仮設住宅を中心に、孤立を防ぎ健康に暮らせるようにと、催しや相談会は数多く開かれている。主催者から共通して聞くのが「来られる人は大丈夫なんです」。震災後も自宅で暮らす「在宅」を含め、本当に支援を必要としている人、孤立している人を把握しきれていないという不安がある。

小鎚中村仮設の赤崎幾哉自治会長は「元気かどうかだけ気にかける」と話す。携帯電話などの発達で遠くの親戚や友人と連絡を取れるようになり、催しなどに参加しないことが孤立ではない。参加しやすい工夫をした上で、後はごみ出しや洗濯物干しなど日々の中で様子を見ている。

町も今年初めて、18歳以上の全町民を対象に今の心身の状態を尋ねる「こころの健康調査」を実施した。学校がケアに取り組んでいるため子供は除いた。現在分析作業中で、希望者には結果を送ることにしており、保健師ら職員の全戸訪問も予定している。肝心の医療機関は、現在法テラスで週1回活動する釜石地域こころのケアセンターのほかは、釜石市の病院まで行くしかない。「自分たちだけでは全部は出来ない。団体やかかりつけ医の先生たちの力も借りながら対応していきたい」(町福祉課)。2度目の冬を迎え、本格的な対応が始まりそうだ。

記事=結城 かほる